「権利能力」のない社団
民事上の法律関係は、「人」を単位として発生するのが原則です。この「人」には、自然な意味での「人(自然人)」のほか、「法人(団体、組織がそれ自体、法律上の人として扱われるもの)」が含まれます。
法人の代表的な例としては、株式会社や、医療法人、学校法人などがありますが、これらはいずれも、会社法などの法律によって、設立の際の要件などが定められているため、その要件を満たせば、法的にも、「法人」として、法律関係の当事者として、扱われることになります。
一方、例えば、学校の同窓会や、仲間内の同好会やクラブ、町内での有志の集合体など、団体としての実質を備えながらも、その設立要件等が法律で定められていないため、そのままでは、法人として認められない団体もあります。
このような団体は、「権利能力のない社団」あるいは「法人格のない社団」(若しくは財団の場合もある)と呼ばれ、法律上の権利義務関係の当事者とはなれないのが原則です。
しかしながら、そういう団体であっても、「団体としての組織や規約を備え、内部で多数決の原則が行われ、構成員の変更しても、団体そのものは存続し、代表の方法、総会の運営、財産管理その他、団体として主要な点が確定している」ような場合、つまり、会社などと同様なレベルでの、団体としての実質を備えているような場合には、団体それ自体が、法律上の当事者となることができますし(最高裁昭和39年10月15日判決など)、また、訴訟においても、当事者として訴えを起こせたり、訴えの相手方(被告)となることもできます(民事訴訟法29条、民事執行法20条)。
問題となるのは、このような団体が、土地や建物など不動産を所有している場合の「登記」の方法と、そのような団体が所有している不動産に対し、強制執行がなされる場合です。
まず、不動産の登記方法については、「権利能力のない社団」そのものの名義(例えば、「○○同好会」とか、「○○クラブ」など)での登記は認められないとされていますので(最高裁昭和47年6月2日判決など)、便宜上、当該団体の「構成員全員の共有名義」による登記か、団体の代表者など「団体の関係者の個人名義での登記」を行うほかない、というのが現実です。
ところが、このように、権利能力なき社団が所有している不動産であるにも関わらず、登記上は、代表者の名義、あるいは、団体関係者名義の財産となっているような場合、団体に対し債権を有する者が、果たしてこのような、登記上は団体の名義ではない不動産に強制執行できるのか、できるとしても、どのようにしたらできるのかが、問題になってきます。
この点、ある「権利能力なき社団」(Aと言います)が、便宜上、その所有する不動産(Cと言います)を、Aの関連会社であるB会社の名義で登記していた場合に、Aの債権者が、B会社名義の上記不動産に強制執行するための方法について争われた事案について、昨年(平成22年)6月29日、最高裁は、次のような判断を示しました。
判決は、
「Aの債権者」は、C不動産が、「Aの構成員全員の総有に属することを確認する旨の、AとAの債権者、及びB会社との間の、確定判決、その他これに準ずる文書」がない限り、C不動産に対し、強制執行することができない
という内容のものです。
「その他これ(確定判決)に準ずる文書」というものに、果たしていかなる文書が該当するのか、については、今後の判例の展開、集積を待つしかありませんが、いずれにしても、権利能力のない社団・財団の所有する財産(特に不動産)に強制執行するような場合には、今後、十分に注意する必要があると思われます。