当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

自転車事故での高額賠償判決

すでにニュースで目にされるなどしてご存じの方も多いかと思いますが
7月4日に、神戸地方裁判所で
 自転車事故にもとづく損害賠償請求の民事訴訟で
 約9500万円という高額の賠償金を命じる判決
がありました。

この判決の特色はいくつかありますが
一つは、自転車による事故にもとづく損害賠償請求の事案であったことです。


私自身も、昨今、朝晩の出勤の際など
歩道を我が物顔で高速で走行する自転車とぶつかりそうになり
ひやっとすることも多いと感じておりますが
自転車も道路交通法上、「軽車両」とされ
条例等で例外を定めている場合をのぞき
原則としては、自動車、自動二輪車などと同様の規制がなされています。

また、たとえ自転車であっても
高速走行の結果、人に衝突した場合の衝撃とその被害は
軽視できないものがあり
特に被害者が老人や幼児などの場合は
重篤な後遺障害が残るなど、結果的に重大な事故となることが多々あり
賠償額も高額になる可能性があります。

これまでも、自転車事故にもとづく損害賠償請求の事案において
高額な賠償額を命じた判決はありましたが
今回の判決は、より一層、かかる傾向に拍車をかけたと言えるかもしれません。


二つ目は、この判決は
加害車両(自転車)の運転者が
事故の当時、11歳の小学校5年生であったことから
その子ではなく、自転車の運転者の保護者であった母親に対し
賠償金の支払いを命じた事案だったということです。

民法712条は、未成年者が不法行為を行った場合において
「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていなかった場合は民事上の賠償責任を負わない
旨を定めており、これを民事上の「責任能力」といいますが
責任能力のある・なしの境目は
年齢でいえば、裁判例などではおおむね、11歳くらいが境界線となっています。
そして、加害者である未成年者に責任能力がないとされた場合は
次の714条により
その未成年者を監督する法定の義務を負う者(通常は親権者)の監督責任
が問われることになり
その結果、監督義務を怠っていた場合は
未成年者に代わって、監督義務者が賠償責任を負うことになります。

今回の判決は
事故当時11歳であった加害者の責任能力がないことを前提に
その母親には
自転車による事故の防止に関し
子どもに対し、十分な指導や注意をしていたとはいえず
監督義務を果たしていなかった
として、その監督義務違反にもとづき
未成年者に代わる損害賠償責任を命じたものです。



今回の判決は、第一審の地裁判決であり、現在控訴中ということですので
今後、控訴審などでどのような判断が下されるのかは分かりませんが
今回のようなケースは、被害者としてはもちろん
加害者としても、あるいは、加害者の監督義務者(子の親)としても
決して他人ごととは思われません。

自転車には、自動車のように
強制保険の加入は法律で義務付けられておりません
(いわゆる原付自転車以上は義務付け)。
自動車と同様の強制保険加入義務付けを含めた
今後の新たな施策が望まれます。