当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

ある労働相談(1)

今回は、先日受けた労働相談に基づいた事例を検討してみたいと思います。

〈事例〉

Xさんは、Y株式会社に、月給30万円の契約で勤務していました。
Y株式会社の経理担当のAさんは、
ある月のXさんの給料を、間違って3万円多く振り込んでしまいました。
それから2年後、
賃金の過払いに気付いたY株式会社は、Xさんに対して
賃金の過払いがあったから翌月の給料から相殺させて欲しい、と伝えました。
Xさんは、これを容認しなければならないのでしょうか。

〈解説〉

まず、Xさんは、
過払い賃金について法律上の原因なく取得している
といえます。
ですので、
XさんはY株式会社に3万円を返還する義務があります(民法703条)。

次に、Y株式会社がXに対して有するこの不当利得返還請求権について
翌月の給料から相殺することは可能でしょうか。
この点、労働基準法は、
賃金の全額払いを規定しており(労基法24条第1項本文)、
この規定は、相殺を禁止する趣旨を包含していると解されています。

したがって、原則からいえば、相殺はできないことになりますが
賃金過払の不可避性等の観点から、最高裁判所は、
控除する時期、方法、金額などからみて
労働者の経済生活の安定を害さない限り、
賃金全額払原則による相殺禁止の例外として許容される
としました(最判昭44年12月18日)。

今回の事例でみると、
翌月に月給30万円のうち3万円を控除することは
労働者の経済生活の安定を害するとまではいえない
と評価することが可能でしょう。

相殺が可能だとしても、すでに2年間もの期間が経過していることから、
Xさんは、返還債務は時効で消滅していると主張できないでしょうか。
労働債権(この事例ではXがYに対して有する債権)については、
労基法で時効期間が2年間と定められています(労基法115条)。

では、過払いとなった賃金の不当利得返還請求権の時効は何年でしょうか。
これについては、特別な定めがないので、
民法の原則に戻って10年ということになるでしょう(民法167条第1項)。
したがって、Xさんは消滅時効を主張することができないということになります。

ここからは独り言です。

Yが持っている不当利得返還請求権は、
Xが有する労働債権の裏返しと見ることができそうです。
そうであれば、
Yの不当利得返還請求権も2年で消滅する
と解釈した方が公平ではないでしょうか。
現在検討中です・・・。


最後に全く関係のない我が子の成長日記を。

昨年8月に子ども(女の子)が産まれ、
あっという間に約10ヶ月が経過しました。

彼女の最近の流行は、
ボックスティッシュからひたすらティッシュを取り出し、ばらまくこと。
朝起きると、枕元にティッシュが散乱していることがよくあります。
目が合うとニコーとニヒルに笑う我が子でした。