当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

消費者被害の救済が一歩前進

昨年の暮れに
「消費者裁判手続特例法」
消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律
が成立したのをご存知でしょうか。

消費者団体が個々の消費者に代わって、
事業者に対して裁判を提起することができる制度としては、
これまで、消費者契約法に定められた差し止め請求だけでした。
内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体が、
事業者に対して、一定の不当な勧誘行為や不当な契約条項の使用について、
差し止めを求めることができるというものです。
消費者被害の発生や拡大を防ぐという意味での効果は期待できるものの、
制度導入から5年余り経過して、裁判が提起された件数としては30数件程度だそうです。




「消費者裁判手続特例法」により、
内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が、
悪徳商法や欠陥商品など共通の原因で損害を被った多数の消費者をまとめて、
事業者に対して、
得た利益を吐き出させたり損害を賠償させたりする裁判を
提起することができるようになりました。
個々の消費者が裁判を提起するには、一般的に言って、
事業者に比べて、情報や交渉力において格段に劣りますし、
費用もかかりますので、泣き寝入りをせざるを得なかったと思います。
その意味では、このような制度ができたことは
消費者被害の救済にとっては一歩前進と言えます。

但し、賠償を求められる損害の範囲が極めて限られています。

例えば、欠陥商品について言えば、
賠償を求められるのは、購入代金についてだけです。
商品の欠陥が原因で、傷害を負ったり死に至ったような場合、
あるいはその商品以外の財産が滅失したり損傷したりした場合には、
その損害賠償は個々の消費者が別途裁判を提起して求めていかなければなりません。

かつて、パロマ湯沸かし器の欠陥が原因で火災が発生し、
消費者が傷害を負ったとか家や家財が焼失や損傷したという被害、
カネボウ化粧品の白斑被害、
アクリフーズが製造した冷凍食品に農薬が混入されていたための食中毒被害、
パソコンの欠陥によるデータの消失で被った損害等については、
別途裁判を提起せざるを得ないということです。

確かに、損害額の算定にあたっては個別事情があり
集団の手続きのなかでは困難な面もありますが、
被害者が相当多数に及ぶのであれば共通の部分も多いのですから、
被害者の負担の軽減のためには、
これらの損害賠償まで拡大する制度となるよう検討していく必要があると思います。

これらの被害はより深刻であるからこそ、
制度の拡大は、消費者被害の防止や救済を図るうえで、
より大きな効果も期待できるのです。