当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

一票の価値の不平等

さる1126日に、昨年7月に実施された参議院議員通常選挙(東京都及び神奈川県選挙区)の
無効が争われた事件の最高裁判決がありました。

選挙の当時
  1票の投票価値の較差が最大で4.77倍に達していた
といわれる、このときの参議院議員選挙について
上記の最高裁判決は、多数意見として

「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた」

と断じつつも、

本件選挙までの間に、従前から存在したこのような不平等状態が解消されるための法改正がなされなかったことをもって、国会がその裁量権を逸脱しているとまでは認められない

として、
「本件選挙が違法である」と主文で宣言した原審(東京高裁)の判決を変更しましたが
15人の最高裁判事全員一致の判決ではありませんでした。

原審東京高裁の結論を支持し

「本件定数配分規定は本件選挙当時において憲法に違反し、本件選挙は違法なものである」

とする大橋正春判事をはじめ
4名もの「反対意見」を述べた判事がいたのです。

 
この最高裁判決は、参議院議員選挙に関するものでしたが
理論上、1票の投票価値の平等がより厳格に守られるべきであるとされる
今回の1214日実施予定の衆議院議員選挙についてはどうなのでしょうか。



実は、衆議院議員の定数配分については、
20113月になされた最高裁の判決を踏まえて、
選挙区定数是正のための法改正が一応、進められはしました。

その結果、いわゆる「05減」の定数割り振りを柱とする法改正がなされてはいます。

しかしながら、上記の法改正は、前述の20113月になされた最高裁判決が
「投票価値の格差を生みだす主因」
として強く問題視した、いわゆる「一人別枠方式」が実質的に残っており
(人口最少の鳥取県を1議席ではなく2議席とする)
是正の結果、かろうじて2倍未満に較差が縮小されるとはいえ
いかにも「姑息」「その場しのぎ」との印象はぬぐえません。

したがって、今回の衆院選も、この改正法にもとづいて行われる限り
依然として、従来と同じ違憲の問題が生じることになります。



前述の1126日の最高裁判決でも
大橋判事が、次のような「きつーい」一言を、反対意見の中で述べておられます。
 

『関係者の主観的意図は別として、国会の行動は、外形的には、定数配分規定の憲法適合性が問題になると当面の選挙を対象とした暫定的措置を採って抜本的改革は先送りし、次の選挙が近づき定数配分規定の憲法適合性が問題になるとまた暫定的措置を採るのみで抜本的改革を先送りするということを繰り返しているように見える。』



昨年1120日の最高裁判決(2012年衆院選をめぐるもの)において
鬼丸かおる判事が述べられたとおり、 
『衆議院議員を選出する権利は、選挙人が当該選挙施行時における国政に関する自己の 意見を主張するほぼ唯一の機会』 
であって、

『国民主権を実現するための国民の最も重要な権利』 
であるが、
投票価値に不平等が存在すると認識されるときは
選挙結果が国民の意見を適正に反映しているとの評価が困難になるのであって、
衆議院議員が
『国民を代表して国政を行い民主主義を実現するとはいい難くなる』
ものである。
以上の理由により、
『憲法は、衆議院議員の選挙について、国民の投票価値をできる限り11に近い平等なものとすることを基本的に保障している』
ものというべきです。


かかる憲法上保障された基本的権利を重要視せず
是正の不備・不十分を「裁量の範囲内」などと開き直り
その違憲状態を司法によって指摘されるや「立法権の侵害だ」などとうそぶくに至っては、
「政治的理由や都合によって、憲法を無視してもかまわない」
と言っているに等しい。

これこそ、閣議決定によって解釈改憲が可能であるとするどこぞの内閣の発想と
軌を全く一にするものです。


技術的に不可避的に生じうる較差を別として
一票の投票価値は「できるかぎり11に近い」ものとすべきであり
そうではなく事実上の一人別枠方式を残存させることにより
「意図的に」不平等を作り出す仕組みの下でなされる今回の衆議院議員選挙は
始めから違憲・違法なものであり無効なものであることが予定されているといえ
それ自体が、憲法と司法権に対する重大な挑戦とさえ、いえるのではないでしょうか。