当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

ある労働相談(2) 「有給休暇」

<事例>

Y社で働いていたXさんは、2週間後に退職することにし、その旨を会社に伝えました。
また、同時に、Xさんには有給休暇の残日数がちょうど14日分存在していたため
これを行使することも伝えました。

すると、会社からは
 「引継もせずに辞められては困る。半分の7日分の有給休暇は認められない。」
と言われてしまいました。

さて、Xさんの14日分の有給休暇取得は認められないでしょうか。



<解説>

法律上、期間の定めのない雇用契約において、労働者が退職する場合
2週間前にその旨を伝えなければなりません(民法627条第1項)。
そして、退職するためには、会社の同意は不要ですから
Xさんの退職の意思表示によって
Xさんは2週間後の日をもって退職することになります。

さて、法律では有給休暇が認められています(労基法39条)。
これは、勤務年数によって当然に発生する権利(出勤日数の条件あり)であり
労働者には
  いついつに有給休暇を取りたい
と、時季を指定する権利(時季指定権)が生じます(労基法39条第5項本文)。
会社の承諾は観念されておらず、
労働者が有給休暇日を指定すれば、当該日は有給休暇日となります。

他方、会社には、承諾権限はないものの「時期変更権」が存在し
「事業の正常な運営を妨げる場合」には
  請求の日ではなく、別の日に取って欲しい
ということができます(労基法39条第5項但書)。

以上を前提に今回の事例を検討すると

Xさんは、退職の14日前に残りの有給休暇全てを使用して退職する意思表示をしています。
これはXさんによる有給休暇の時季指定権の行使ですね。

そうすると、Y社としては、時期変更権を行使できるかどうかという問題になりますが
ここでひとつ問題が生じます。
すなわち、Y社が仮に時期変更権を行使すると
Xさんは、残りの有給休暇を全て取得することができなくなります。
つまり、7日分の時期変更権が認められた場合
Xさんはその7日分の有給休暇を退職前に使用しきることができなくなります。
そのため、Y社の時期変更権の行使には、もう一つ制約があり
他の時期に有給休暇を与えられる可能性が存在している必要があると考えるべきです。

結局、「事業の正常な運営を妨げる場合」の如何に関わらず、
Xさんは、全ての未消化有給休暇を取得でき、
Y社としては時期変更権を行使できないことになります。
(この点については、反対の考え方も存在します)

以上が法律上の帰結となります。

ただ、これではやはりY社としては困りますよね。
引継もしないでやめられたら困る、というY社の言い分にも
合理性はあると思います。

したがって、できれば、引継の期間も考慮した上で退職の意思表示をし
上司と相談しながら、未消化年休の取得をうまく使用することが
トラブル回避につながるかと思います。


最後に、我が子の成長日記を少し。

先月、娘は1歳になり、よく喋るようになりました。

私を指さし、「とうちゃん」と言ったかと思えば
テレビに出てくるタレントに対して「とうちゃん!」と叫び
絵本に出てくるキャラクターに対しても「とうちゃん!」と叫んでいます。

どうやら、まだ、「とうちゃん」がだれであるかわからないようです。