当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

『成長戦略』って、誰のため?(1)

安倍政権は、このほど、アベノミクスの第3の矢として『成長戦略』を発表した。

その中に、「女性の活躍促進」という項目がある。
25歳から44歳の女性の就業率を約5ポイント向上させ、20年に73%にしよう
というものである。

そのための施策の1つとして
子どもが3歳になるまでは育児休業を選択しやすいよう、職場環境を整備する
ことを掲げている。

安倍首相は、
  「 3年間抱っこし放題の職場復帰 」
と謳っている。
裏を返せば、「女性は3年間は育児に専念せよ。」ということではないか。
そこには、
  子どもが3歳になるまでは母親の手で育てるべき
という価値観が垣間見える。


一方、少子化大臣が設置した有識者会議は、
  「 生命と女性の手帳 (女性手帳) 」 ( 仮称 )
を対象となる全女性に配布することを提案した。
妊娠・出産についての知識を盛り込んだ内容で、
中学、高校、大学入学時、成人式などの人生の節目ごとに配布する
というものである。
これも、「結婚・妊娠・出産の支援」を、
『成長戦略』の項目の1つである「少子化対策」の一環と位置付ける
安倍首相の指示に応えるものである。


ここで、
 仕事と育児を両立させながら働き続けることによって、
 自らの能力を高め、人間として成長することは、
 何よりも、女性(むろん男性も)の権利であること、
 そのうえで、経済的な豊かさを享受することは国民の権利である
ことを、改めて確認する必要がある。

そして、また、そもそも・・・・、
 子どもを産むか産まないか、
 何歳で産むか、
 具体的にどのような子育てをするか は、
人の生き方の問題であり、自由に選択できなければならないはずである。

上記のような
 女性の権利、国民の権利を保障するための社会環境を整備する ことが
国の役割である。
まず、 若者が産みたくても産めない現在の社会環境を何とかする のが、
そして、
 多様な子育てが可能になるような環境の整備をする のが、
国の役割である。


『成長戦略』のために、女性は働き、産み、子育てもせよ(女性の活用)
という、安倍首相を初めとした政府の考え方は
本末転倒も甚だしいと言わなければならない。


ちなみに、自由民主党の憲法改正草案は、
「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」を定める現憲法24条の冒頭に、
現憲法にはない次のような条項を付け加えている。
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。
家族は、互いに助け合わなければならない。
そもそも、日本国憲法24条は、
戦前の封建的な家制度を否定し、
家族生活においても個人を基本的な単位として考え、
個人の尊厳と両性の本質的平等
を基本理念として掲げたのではなかったか。


特定の価値観のもと、政府が次々に打ち出す、
人の生き方に土足で踏み込むような施策の背景に
憲法改正草案の家族に関する考え方が色濃く存在することは明らかである。
極めて不快であるばかりか、
戦前への回帰のきな臭さ、危うさすら感ずるのである。