当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

『成長戦略』って、誰のため?(2)

安倍首相は
アベノミクスの目指すところは、「世界で一番企業が活動しやすい国」である
と、臆面もなく述べているそうです。

そして、「第3の矢」として打ち出した成長戦略のなかの
雇用政策のキーワードとして 「人が動く」 を掲げています。
つまり、「雇用の維持」から「転職支援」への転換を進めようとしているのです。

その目玉となるのが、『限定正社員』の拡大です。
限定正社員』とは、仕事や勤務地を限定する働き方をする正社員
をいいます。
定められた仕事や勤務地がなくなれば、企業は、容易に解雇できる
とするものです。
企業は余剰人員を抱える心配がなくなります。


平成23年の厚労省の調査によれば
すでに調査対象の企業の半数が『限定正社員』制度を導入しており
その多くは賃金が正社員の8割ほどであることを見ると
労働者からすれば、正社員を増やすどころか
むしろ正社員を減らす道具に使われかねないことが懸念されます。

さらに、成長戦略では
『派遣労働規制の大幅緩和』や『裁量労働制の拡大』も予定されています。

『派遣労働規制の大幅緩和』は
まさに、企業が派遣社員を使いやすくするための規制緩和です。
つまり
  派遣社員が派遣元に無期雇用されている場合(全体の2割に過ぎない)には
  どんな仕事でも同じ派遣社員を使い続けられ
  派遣社員が派遣元に有期雇用されている場合には
  人を3年ごとに替えることを条件に
  どんな仕事でも派遣社員を使い続けられる
とするのです。
これは
労働者派遣法の大原則である「常用代替の防止」を覆すもの
と言わざるを得ません。

政府は、来年の通常国会にこの改正案の上程を予定しています。

秋の臨時国会に提案が予定されている国家戦略特区関連法案に
雇用に関する特区として盛り込まれるのが『裁量労働制の拡大』です。
指定された特区において
  一定の収入がある課長相当級以上の社員
あるいは
  高度の専門知識や技術を有する社員
を対象に
  労働時間規制を撤廃する(残業代、休日・深夜割増賃金を支払わない)
というものです。

政府は、すでに、一部の企業に対し、この制度の導入を打診しているのです。
脱法とも思われる特区での実績をもとに
国全体に導入するというのは、アベノミクスの常とう手段と言えましょう。


今や、派遣社員を含む非正規社員は約2040万人に達し
全労働者に占める割合は38.2%と、過去最大を更新しています。
正社員で転職した人の40.3%は非正規社員に転換しています。

「アベノミクス」支持を表明した
ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授は言います。

 『3本目の矢』は、単なる成長戦略ではなく、格差是正に配慮することが欠かせない。

成長はそれ自体が目的ではない。重要なのは環境保全も含めて、すべての市民の生活の質や福祉水準を高めることである。だからこそ、所得の分配と誰が政策の恩恵を受けるかということに、私たちは敏感でなければいけない。

と。