当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

自宅で穏やかに生活し最期を迎えたいもの

毎年敬老の日が近づくと、マスコミで認知症や介護の問題が取り沙汰される。

私も、成年後見人として何人かのお年寄りを担当しており、
認知症や介護の問題は日常的に意識せざるを得ない。
何よりも、遠くない将来、自らも介護が必要となる可能性も否定できない。 


誰しも、
家族に迷惑をかけずに住み慣れた自宅で穏やかに生活し最期を迎えたい
と思うのは当然のことである。
介護が必要な重度の高齢者であっても在宅生活を可能にしようとする国の取り組みは、
その意味では賛成である。

ところが、この取り組みの一環として2012年に始まった
「定期巡回・随時対応サービス」は、
利用料が介護保険のサービス利用限度額ぎりぎりに設定されているため
他のサービス(デイサービスやショートステイ等)を利用しようとすると
全額自己負担になってしまうこと、
サービスに対応できるだけの人材の確保が難しいことなどの理由から、
実施している自治体は1割にとどまっており、利用者も多くはない。

その一方で、国は要支援の認定基準を厳しくしたり
特別養護老人ホームの入居を制限したりといった政策を次々に打ち出し、
介護費の抑制・削減を推し進めようとしている。

結局、家族による介護の負担がますます重くなることが予想される。
昨年度の国民生活基礎調査によれば、主な介護の担い手の7割強が家族であり、
さらに、その過半数が65歳以上同士の「老々介護」である。

また、未婚の人や共働きが増えたことから、
同居の子が担う割合も21%と増加している。
要介護3以上では終日介護が必要になるので
働いていた子が離職を迫られるケースが後を絶たない。
そうなれば、経済的にも、精神的にも、そして肉体的にも、
介護する方も介護される方も悲惨な状況に追い込まれる。
何とも痛ましい。
 

高齢化が進み、団塊の世代が75歳以上になる2025年にはピークに達する。
お年寄りそれぞれの環境に応じたさまざまなサービスが設定され、
それらのサービスを安心して受けられる介護費の公的負担と
サービスを担う人材の確保は焦眉の課題である。
そのために私たちの税金が有効に活用されるのであれば、
納税額が増加しても国民は納得すると思うのである。


むろん、健康を維持できるよう個人個人が努力することは必要であろう。
しかし、健康をむしばむ要因は、
貧困や低賃金・長時間過密労働など
個人ではどうしようもない社会的環境のもとに存在することも
見据えなければならない。
これらの要因を根本的に除去することなく、
一律に医療費を削減しようとする国の政策には賛成できない。