当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

児童虐待について考える

昨年度は、児童相談所での児童虐待相談対応件数が7万件を超えて
過去最多の件数を計上したようである。

あくまで、「対応」した件数であるから、
児童虐待の件数自体が増えているのかどうかは不明であるが、
近年、社会的な関心が非常に高まっているニュースであることは間違いない。


ところで、児童虐待の報道があるたびに、
何かと児童相談所が叩かれるきらいがあるように思う。
「対応が遅い。」
と。 


実際、児童相談所の動きが遅いと指摘されるのもやむなしの面はあるのであろう。
ただし、それは、児童相談所のみに課された問題ではなく、
人員不足の問題であったり、調査権の要件などの法律上の問題であったり、
複数の要因が合わさっているのだと思う。


例えば、児童相談所は、
「児童虐待が行われているおそれがあると認められるときは」、
立入調査を実施することができるとされている(児童虐待防止法第9条)。
これが積極的かつ効果的に運用されるのであれば、
虐待防止のための手段として有効であろうが、
実際には、児童虐待の「おそれ」を、
児童相談所の責任において判断しなければならないために、
消極的にならざるを得ない面があるように思う。
「虐待」の判断ではなく、「おそれ」の判断に時間を要する
ということもあるだろう。

例えばであるが、児童相談所の(判断)責任を軽くするために、
立入調査権行使の要件を「任意の立入調査を拒否した」などの明確な要件にし、
児童相談所の(判断)責任を軽くするとともに、
調査の長期化を生まないような法改正が望ましいのではないかと思う。

加えて、「親子関係の再構築」に重点を置く児童相談所の基本方針については
見直しが必要ではないだろうか。
「親子関係の再構築」に重点を置くがゆえに、
保護者との間で対立関係を生む可能性の高い「強制調査の行使」には
消極的であるという事情はあると思われる。
その後の支援が困難になると。

現状、児童相談所においては、
「親子関係の再構築」と「親子の分離」を天秤にかけて、
悩みながら個別事案に対応していると思われるが、
全体として、「親子関係の再構築」の要請を一歩後退させて考えるべきではないか。

一般市民等からの通報があっても、実際に調査を行うのは児童相談所である。
児童相談所が調査に積極的にならない以上は、虐待の発見は困難であるし、
救える被虐待児を救うこともできない。

昨年の夏に、群馬県玉村町で起きた3歳男児の虐待死亡事件において、
県(児童相談所)は、母親が児童相談所との接触を拒否した以降、
児童の所在確認を行わなかったことについて
「母親との関係が悪化するおそれがあった。」
とコメントをしている。
まさに、「親子関係の再構築」を視野に入れて、慎重に動いた事案だったのであろう。

児童相談所が積極的な介入ができるように、
法改正や人員増員などの改善を行う必要があるように思う。