当事務所の所属弁護士8名によるコラム(ブログ)です。

善意と悪意

私が調停委員として関わった、ある民事調停で
「悪意」
という言葉が問題となったことがあります。

事案は境界紛争に関するもので
申立人(弁護士が代理人として就いていました)から、申立書にて
相手方による土地の占有は悪意であるから(10年の)時効取得は成立しない
旨の主張がなされました。
これに対し、相手方(本人)から、答弁書にて
悪意だなどとんでもない言いがかりだ
という趣旨の、怒りに充ちた反論がなされました。



ここまでのところで、この話しのおかしみが分かる人は、
かなり法律に明るい人だと言っていいでしょう。

そう、社会一般で私たちが日常生活上使う「悪意」とは
「他人に害を与えようとする心」
を意味するとされています。
(ちなみに「善意」とは、「善良な心」ないしは「他人のためを思う心」を意味するのが一般的です。)
これに対し、法律用語で「善意」とは
「一定の事実を知らない」
ことであり
「悪意」とは
「一定の事実を知っている」
ことです。
すなわち、法学上の善意・悪意は、倫理的意味をもつものではなく、
一定の事実についての知・不知という心理状態(内心的事実)を
あらわしているにすぎないのです。

ちなみに、民法上、善意・悪意の関係条文は相当数あります。
列挙すれば、
§32-2,§703,§704,§189,§150,
§32-1,§96,§112(§109,§110),
§192,§478,§480
などです。

このように、法律用語には、
同じ言葉であっても、日常生活上の用語と意味が異なる場合があるのですが、
こうした誤解が原因で、冒頭に掲げた例のごとく、
無用の争いを引き起こしたり、
あるいは解決が困難になったり、紛争を長引かせたりすることがあるのです。

以上、十分留意すべきことと心得ています。